高周波加熱型昇温脱離分析装置IH-TDS1700の特徴
高周波加熱型昇温脱離分析装置IH-TDS1700は、試料を超高真空環境(10-7Pa以下)で電磁誘導加熱によりプログラム昇温した
際に脱離する分子を四重極質量分析計(QMS)でリアルタイム観測する分析装置です。
超高真空環境であるため、副次的な反応(*)の影響が抑えられた理想的な状態で脱離成分の高感度観測が可能です。
(*) 測定中に加熱された試料と雰囲気成分が起こす反応であったり、試料から脱離した成分と雰囲気成分が起こす反応のこと。
鉄鋼など金属材料において効率良く加熱が可能で、1700℃を超える測定も可能です。
鋼鉄材料の水素脆化(遅れ破壊)因子となる鋼中拡散性水素の低温TDS測定も可能です。
装置本体の制御はPLC(Programmable Logic Controller)により自動で行われ、インターフェースにタッチパネルを採用しております。
*本装置は公益財団法人 市村清新技術財団の助成により開発いたしました。
参考文献
●北原学, et al. 腐食環境下で応力付与した高張力鋼板の腐食速度と拡散性水素の評価.Zairyo-to-Kankyo, 2018, 67.4: 172-178.
●HANADA, Chihiro, et al. Suppression of bubble formation in levitated molten samples of Ti6Al4V with TiC for Hetero-3D at the
International Space Station (ISS). International Journal of Microgravity Science and Application, 2023, 40.3: 400301.
ロードロックチャンバー装備
ロードロックチャンバーは、測定の高効率化(高スループット)や高感度化のために必須です。 弊社のロードロックチャンバーとサンプル搬送機構は、サンプルのみを素早く超高真空の分析チャンバーへ導入することができます。
ロードロックチャンバーが無ければ試料交換の度に分析チャンバーを大気開放する必要があります。一度大気開放すると分析チャンバー内に多量の大気成分(特に水分)が吸着し、十分に排気されるまで長い時間を要します。
鋼中拡散性水素の低温TDS測定
冷却した鋼鉄試験片の測定が可能であるため、水素の拡散係数が大きいBCC鋼の拡散性水素を逃がすことなく、高精度に定量できます。
冷却した鋼鉄試験片には霜が付着し、この霜の脱離が水素の信号に影響を与え、拡散性水素量の誤差の要因となります(不確かさが大きくなります)。IH-TDS1700のコールドトラップ(オプション)は、霜をトラップすることで霜の影響を最小限に抑え、歪みの少ない拡散性水素の脱離スペクトルを得ることは可能です。
脱離ガスの定量
データ処理プログラムによって脱離ガスの定量が可能です。脱離ガスの定量を行うには定期的に質量分析計の感度を校正する必要があります。
標準リークを用いた感度校正は、ガスの種類と同じ数の高価な標準リークを用意する必要があり、校正作業には時間が掛かります。また、有毒ガスの標準リークを用いる場合、安全衛生管理も厳しくなります。
現行の定量プログラムは、標準リークによる校正法に比べ迅速、簡便かつ安全に脱離ガスの定量を行うことができます。弊社製のNISTトレーサブル水素標準試料を定期的に測定していただくだけで精度の高い結果が得られます。弊社が開発した感度補正法は、水素以外のガスにおいても感度を補正することができ、産総研(AIST)の国家標準に基づいた標準リークにより校正した定量結果とも良く一致することが確認されています。
参考文献
●平下紀夫; 浦野真理; 吉田肇. 分析分野におけるガス放出測定. Journal of the Vacuum Society of Japan, 2014, 57.6: 214-218.
技術解説
- 昇温脱離法
- 定量分析
昇温脱離分析法
昇温脱離法の解析に使用される脱離モデルや活性化エネルギの求め方についての参考資料です。
※PDFファイルが開きます。
昇温脱離分析装置における定量
この資料は平下・内山の分析化学での報告 「N.Hirashita and T.Uchiyama, BUNSEKI KAGAKU, 43 , 757 (1994)」に基づいています。
昇温脱離分析装置で測定した昇温脱離スペクトルから、脱離ガスの定量を行なうことができます。
測定チャンバーの排気速度が脱離ガスに起因する測定チャンバーの圧力変化に比べて十分に大きいとき、脱離ガス成分の分圧の変化は単位時間あたりの脱離量(脱離速度)に比例します。
質量分析計ではイオン電流と分圧は比例するので、結局イオン電流と脱離速度が比例することとなり、イオン電流を積分した面積強度から全脱離量を計算することができます。
既知量のH+を注入したSi試料を用いて面積強度と脱離量の比例係数を求めておけば、様々な試料についてm/z2の面積強度から水素の脱離量を決定することができます。
また水素以外の分子については、水素と目的分子のイオン化難易度、フラグメンテーションファクター、透過率などのパラメーターから目的分子についての比例係数を計算することができます。 この比例係数を使えば水素以外の分子の定量も可能です。